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論文:平成13年の行政書士法改正

行政書士改正を受けて急きょ「論点特集」として平成13年8月号から11月号にかけて「行政書士とうきょう」に 掲載された記事である。(筆者の個人的見解ではなく広報部として掲載している)


「行政書士とうきょう」平成13年7月号

論点特集

改正行政書士法の解説とこれからの行政書士業務(1)

                               戸 口 勤

はじめに

先ず、初めに日政連、日行連及び東京会並びに賛成して頂いた各単位会の執行部の皆様に心から感謝の意を表したい。規制緩和の嵐の中でこれだけの改正を良く達成させたと思う。21世紀元年は、「行政書士制度の再構築元年」と呼べるのではないだろうか。

改正法成立と今後について

代理権を獲得するために具体的な活動があったのは昭和55年の法改正の時であったと記憶している。その当時の法改正で、「提出手続き代理権」を獲得できず「提出手続き代行権」と「書類作成相談業務」が追加された。爾来、幾たびか代理権獲得のための活動を続けてきたが、特に資格制度にはなんら関係の無いはずの自動車関係団体の反対があった事は会員諸氏の知るところである。。

今回は、昨年の弁理士法改正にあたっての関係省庁、自民党関係部会、関係団体と行政書士会との合意確認事項を受けての改正であった。弁理士法改正から2年以内に行政書士法を改正するとの当該合意があったのでタイムリミットが迫っての改正であり、司法制度改革と規制緩和の流れの中で20年来の悲願であった代理権の獲得が劇的に達成されたのである。この「代理権」獲得の法改正が達成された事の意味するところは、行政書士のみならず利便性を求める国民の勝利だと思う。業界団体のエゴは通用しない時代が到来した証でもあるからである。

今後は、行政書士法の解釈を国民に周知し、国民の為の行政書士制度として整備を図らねばならない。現執行部及び会員の熱意で得た代理権を実務の上から行使して行く事は、私たち会員の務めと思う。

法律の効果

「行政書士法の一部を改正する法律案」は原案通りの成立につき、改正条文は、「行政書士とうきょう」5月号56ページを参照されたい。

第1条(目的)の改正は、「寄与し」の下に「、あわせて」を加えるだけの事のように思えるが、これは非常に重要な改正なのである。それは後述の第1条の3第2号の「契約代理業務」(民間人と民間人との契約を代理するので略して、「民民代理」と言われる。)の規定を創設することを受けての改正である。

旧法の規定では「・・行政の円滑な実施に寄与・・(することに困って)・・国民の利便に資する・・」のであったが、「民民代理」は「行政の円滑実施に寄与」する事と「国民の利便に資する」事の2つの柱にする必要があり、そのための改正と解することができる。

次に、第1条の3の改正であるが、大幅に改正され代理権が法文に明記された。

今回の改正の目的について、衆議院法制局では、行政書士制度の明確化・・と説明しているが、その意味するところは、代理権の創設である。第1号が、「提出手続き代行」から「提出手続き代理」に改正された事で、日々の実際の業務の中にあって、許認可申請手続きが変わる訳ではない。

しかし、代理の語句が法文中に入った事で代行業者から代理する法律家に成った事は大きな改正と言わざるを得ない。特に第2号の代理人の意味は大きい。契約締結代理業務はここに規定された。第2号の文言中、契約書等を代理して作成するのではなく、代理人として作成すると規定した。この「人」の1字の重みを理解しなければならない。

詳しくは次回に譲る事にする。


「行政書士とうきょう」平成13年8月号

論点特集

改正行政書士法の解説とこれからの行政書士業務(2)

                               戸 口 勤

なぜ代理なのか=(第1条の3第1号の代理)

ここで、代理と代行の意味を再確認したい。本号の代理は、民民代理の本条第2号との代理とは少し概念を異にし、純然たる公法上の代理(行政機関から行政機関に対する委任等による代理)とも概念を異にし別に論じなければならない。本号の代理は、行政庁に対して申請人が何かの利益、効果等を求める為の代理である。ここに意思表示の合致は見られないが、法行為である事に変わりが無い。しかし、私法である民法上の代理理論をそのまま公法上の代理制度に適用する事はできないのは勿論だが、法行為を本人に代わって行う観点においては類似性が見られる。

本号の代理は、行政手続上の代理であるので準公法上の代理とも考えられるが、申請人である本人の申請意思に基づき行政書士が代理人として「提出手続代理」行為を行なう点で民法上の代理の法理論を一部的に類推適用でき得ると解釈する。

従って、代理とは、代理人の法行為によって、本人が直接にその法律効果を取得する事であるとここでは一応に定義する。それに対して、代行とは、事実行為を本人に代わって行なう事であり、代行者(使者)は、本人に本人に代わって法行為や意思表示を行なうことができない。

最応に広く表現をすれば、代理と代行は、法行為(以下法律行為を含む)を本人に代わって行なうか、事実行為を本人に代わって行なうかの相違である。

法行為を本人に代わって行なう事を業をする者を法律家と言う。従って、改正前の行政書士法には、代理の規定が無いので、厳密に言えば行政書士は法律家とは言えなかった事になる。行政書士は、改正行政書士法が成立し明年7月1日の施行によって、初めて法律家として、国家から認知を受けたと言えるのである。

本号の代理は、「意思代理ではなく事実行為の代理である」との説もあるが、「事実行為の代理」と言う概念は法解釈上で疑問が残る。代理と代行の概念的区別が不明確になるからである。

提出手続代理行為は「事実行為」ではなく申請に関する意思表示の一種(受理、許可等の効果を求める一方行為)と解するのが相当であろう。いずれ総務省の解説があるのでそれを待ちたい。

実務上から見た代理

では、「提出手続代理」と「手続代理」との相違はどうであろうか。「・・提出・・」と限定している前者の方が後者より狭い概念と言えるが、日々の業務においてはまったく同一と解しても間違いではない。この1号の代理業務のみでは、字句の訂正、補正は行ない得るが、提出書類の内容変更まではする事が出来ない。ただし、第1条の2の書類作成業務について、依頼者から「一式包括作成委任」を受任すれば提出書類の内容変更までをすることが出来ると解することが出来る。

従って、書類作成業務と提出手続代理業務とを同時に委任を受け依頼されるのが通常なので、その二つの業務を受任する事によって、「提出手続代理」が結果的には「手続代理」と同一の業務になりまったく差異が無くなる。改正行政書士法も、この事を前提とし「・・提出する手続きを代理する」と規定したと解する事が出来る。法案作成にあたっての日行連、日政連の未来を見据えた努力がうかがえる。

「提出手続代理業務」には罰則規定がないので誰でも提出するだけであるのなら行なうことができる。但し、報酬を得て書類作成を行えば行政書士法違反である。「提出代理業務」を報酬を得て、「書類作成業務」を無報酬で行ったらどうであろうか。脱法行為として、当然行政書士法違反になる。次回は、弁護士法との関係、民民代理について論及したい。


「行政書士とうきょう」平成13年9月号

論点特集

改正行政書士法の解説とこれからの行政書士業務(3)

                               戸 口 勤

第一条の三第2号の代理

第2号の代理は、第1号の代理とは少し概念を異にする私法上の代理であり、第2号の代理は、当事者間における「意思の合致」を得る為の代理が中心である。

第2号は、「書類を代理して作成する」と言う概念はあり得ないので、「代理して作成する」ではなく「・・代理人として作成する・・」と規定され、「人」の一文字が入ったことは画期的改正であり重要な意味が存在する。第2号の代理は「契約締結代理業務」が前提として存在し、その代理人として契約書を作成する意味であると解する事ができるからである。

「契約締結代理」「契約相談」が新たな行政書士業務となったのである。今でも、「同じ業務を取り扱っている」と主張する行政書士もいる。しかし、注文に規定され行政書士の法定業務とされた事は評価すべきである。取り扱っても違法でない事と業務は、行政書士賠償責任保険の担保範囲にもなりうる。

改正反対の根拠はなにか

行政書士法改正反対者の考え方は、第1号とこの第2号代理を独占業務にすべきであると主張した。しかし、弁護士法第72条は「争訟性の有る法律事務」に限定すべきであると主張し、「契約締結代理業務」は「争訟性の無い法律事務」で弁護士の独占業務では無いとして第2号の行政書士業務に取り込んだ。それを行政書士の独占業務にする理由づけには矛盾がある。

且つ、司法制度改革の中で、関係省庁、最高裁等の立会いの下に「弁護士の独占業務は『争訟性の有る法律業務』に限られる」と確認された事も行政書士にとっての大きな勝利である。

代理業務を行政書士の独占業務とする事は、規制緩和の趨勢の中、時代に逆行する団体エゴでしかない。行政書士の独占業務は、第1条の2の「書類作成業務」で充分に余りある。

争訟性の有る法律事務(弁護士との業務)

次に示談書と示談交渉についてであるが、示談書の作成は、一見「争訟性の有る法律事務」に思いがちである。しかし、示談書は、紛争の結果締結をするものであり、新たな紛争を生じさせない、紛争が再発しない様にする為の合意書である。そこには紛争の終焉が有り、示談書は「争訟性の無い法律事務」と解する事ができる。従って、示談書の作成を「民民」の業務範囲をして大いに取り扱うべきである。示談交渉は、「争訟性の有る法律事務」であり報酬を得る目的で行う事は弁護士の独占業務であろうが、国民の利便性を考えた場合、簡易裁判所の事物菅轄と同額(少額)の示談交渉は行政書士が取り扱うべきであり、今後の課題として検討の要するところである。

下級審の判決では少額の示談交渉は非弁活動に当たらないとするものもあるが高等裁判所で取り消されている。(非弁活動=弁護士法七二条違反のことを言います)

紛争の内在する内容証明郵便を代理人として発すれば非弁活動になる。非弁活動の法律行為は無効であり、本人の追認が有っても有効にはならないので注意を要する。しかし、争訟性のある法律事務(内容証明等)であっても、書類作成として取り扱えば正当な行政書士業務と解する。

まとめ

私法上の代理が法文に規定された士業は、行政書士、弁護士、弁理士の3資格のみであって税理士、司法書士、社会保険労務士の士業法にはその規定が無い。そのすばらしさを知る時、法律家としての認識と責任の重さを感ぜざるを得ない。同時に、会員一人一人が研鑽を積み、常に国民の利便性並びに公益的責務を意識し、そのニーズに応えなければならない使命を日々痛感する。


「行政書士とうきょう」平成13年10月号

論点特集

改正行政書士法の解説とこれからの行政書士業務(4)

                               戸 口 勤

追補として、これからの行政書士の業務と責務について論及する。

具体的な提出手続代理業務を進展させる為に

提出手続代理権の獲得によって、行政庁の対応がどのように変わって行くであろうか。今回の改正の目的は「行政書士業務の明確化」にある。その事を踏まえると、殆ど行政手続そのものは変わりが無く従来通りのようにも思えが、「代行」から「代理」へ文言が改正され、まったく同じ取り扱いと言う事は法的にあり得ない。法律は、解釈に依ってかなり適用、運用が変わるため各行政庁の適正な改正行政書士法の解釈を期待する。具体的な手続きに於いては、誤字、脱字等の軽微な訂正は行政書士の職印で可とされなければならない。また、許可書等の受領する事が出来ると解する。然じて、許可書の交付が郵送制度による場合は、行政書士も受領し得ない。何故ならば、本人に受領権限が無い行為を行政書士に委任する事が出来ないからである。

何れにしても、行政書士ひとり一人の意識を行政庁に対する対応が行政庁を動かし、結果的に、国民の為の理想の提出手続制度へと確立されて行くのである。

急がれる行政書士事務所法人化への法改正

おりしも、先般の通常国会で弁護士、弁理士、税理士事務所の法人化の法案が成立した。司法書士、社会保険労務士、不動産鑑定士の各士業会も事務所法人化の法改正に向けて準備が進められている。代理権の獲得が、士業界で最後に成ってしまった事を教訓として、行政書士事務所法人化の為の法改正を急がねばならない。

士業事務所法人化の要請は、①事務所経営の規模拡大による安定化、近代化と②多数の行政書士による継続性、透明性のある事務所経営、事件処理並びに③法律、税務、行政手続等の複雑専門化等に対応する為であり、④国民ニーズの多様化に対応し、引いては国民の利便性こそがその目的である。国際化、多様化の中で弁護士も、民事、刑事、家事の専門分野だけでは到底対応できなくなり、その事件の専門性を必要とされる様になった。税理士も同じく税制度の専門化、高度化により一人の税理士のみでは対応が難しくなってきた。他の士業も法人化の要請理由とそのニーズは同じであるが、行政書士こそが、業務の専門性が求められ、守備範囲の広さでは士業の中で群をぬく。

行政書士制度は、「行政の専門家である行政官」と「『素人である国民』の代理人である専門家行政書士」とが対等に行政手続を進める事によって、行政手続の円滑と適正な運用を国民に対して保障している。すなわち、行政書士制度は、国家の国民に対する「申請権の保障」の制度であると考えられている。従って、国民に「申請権を保障」する為には、行政書士は、業務の専門性、継続性そして業務の透明性までも強く要求されるのであろし、それらを強く求められれば事務所の法人化は当然の帰結となる。その観点からも、行政書士は、事務所法人化の法改正を急がなければならない。

ADR=裁判外紛争処理制度への責務

現在の裁判外紛争処理制度は、直接に紛争処理を目的とした「建設紛争審査会」「交通事故紛争処理センター」があり、弁護士会、弁理士会の共同で設立した「工業所有権仲裁センター」等がある。それを利用するためには、数ヶ月前から予約が必要で、急を要する解決には利用できない。その他に、消費者相談事業活動の一環として、紛争処理を取り扱う「国民生活センター」「消費者センター」等がある。弁護士会や司法書士会はボランティアで相談事業を取り扱っているが、当事者双方が合意しなければ法的効果が無い点で積極的な解決制度とは言えない。司法制度改革審議会において、ADRに隣接法律専門職(士業)をどの様に活用するかが課題を成っている。行政書士は、今回の法改正で「契約締結代理」「契約交渉代理」等の業務が法定業務とされた。それにより、行政書士は当然に法律家に名実共に成ったのであるから、ADRに積極的に活用されなければならない。その形態は、業務としてでもボランティアとしてでも良いと考える。国民の利用しやすい多様な解決手段としてのADRの実現に、行政書士は進んで協力する責務がある。

会計調査人制度への行政書士の役割

法務省で現在「会計調査人」制度を検討中である。行政書士が会計業務を取り扱う事は広く知られていない。財務諸表は、主に貸借対照表と損益計算書とに別れるが、貸借対照表は、財政状態と言う事実を証する書面であり、損益計算書は、経営成績と言う事実を証する書面である。従って、財務諸表は、事実証明に関する書類であり、その作成は行政書士の主たる業務である。

行政書士の会計業務は、公認会計士や税理士における会計業務とは本質を異にしている。公認会計士と税理士の両資格の会計業務の中には、財務諸表の作成は包含されている。行政書士の会計業務は、財務諸表を作成する為の手段としての会計業務であり、財務諸表に重点が置かれている事に特徴を見ることができる。それは、事実証明を内在していると考える事ができる。会計調査人制度のこれからの実務上の問題として、公認会計士や税理士が作成した財務諸表を自らが会計調査する事には疑問が残る。行政書士こそが、第三者として事実証明の専門家として会計調査を担当すべきと考えるが如何であろう。会計調査とは、会計事実又は真実を証明する事に他ならないのではないだろうか。

許認可申請は、財務諸表の添付を求められる事が多い。財務諸表の分析が出来なくては行政書士は務まらない。それだけ、行政書士業務は財務諸表と切っても切れない関係にある。行政書士が、会計の専門家として社会的に認知されない事は、行政書士自身の自覚と啓蒙が不足しているからだと思うのである。毎日の様に、法に基づく財務諸表の組み替えをしているのが現実の行政書士の姿である。自身を持って会計の専門家を自負しなければならない。行政書士が中心に成って設立した会計学会が全国に2つある。それらの学会は、東京と福岡にそれぞれ事務所を置く。

ワン・ストップ・サービス実現への行政書士の社会的責務

「ワン・ストップ・サービス」の語源は流通業界の「ワン・ストップ・ショッピング」にある。百貨店、スーパー等の量販店は、早くから「ワン・ストップ・ショッピング」を指向し、消費者のニーズに対応すべく品そろえを充実され続々と出店させた。そこには、消費者の利便性を常に考えてきた流通業界の姿勢が見られた。しかし、これまで士業界は、業界を厳しく解釈し、職域の確保を優先させ、国民の利便性は二の次であった。

ここに来て、司法制度改革審議会の中で、「ワン・ストップ・サービス」が呼ばれ、「経済法律総合事務所」制度が提案されている。しかし、当該事務所を数多く作らなければ意味がない。事務所内に資格士業者を一同に会する制度を創設しても「ワン・ストップ・サービス」は現実のものとはならない。独立を志向した資格士業者の多くが総合事務所に参加するとは考えにくく「ワン・ストップ・サービス」は、まれな事務所となってしまう可能性があるからである。

そこで、「ワン・ストップ・サービス」を現実のものとする為には、現行制度をできるだけ堅持しつつ、前掲の①事務所の法人化はもとより、②他の士業事務所での当該資格士業者の事務処理を認める事と③士業者間におけるネットワークを組み、紹介精度を確立する事が必要であろう。

行政書士は、弁護士以外の資格士業のルーツでもあるのであるから、「ワン・ストップ・サービス」の窓口としての役割に適任であり、責務でもあろう。他に資格士業制度は、主に税務署、登記所、特許庁等に限定される事が行政書士制度との大きな相違点である。行政書士は他の士業者の取り扱わない全ての行政庁を対象とした行政手続についての業務をなす事が出来る事が、「ワン・ストップ・サービス」の窓口担当士業者に適任の所以である。資格士業者同士で、業務の問題を考えている時ではない。専門は専門として認め合い、各士業者がネットロークを組み、いかに国民のニーズに対応して行けるかに、それぞれの制度の存亡が掛かっている。

 

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